2019年のNHK紅白歌合戦で披露された「AI美空ひばり」。そして2025年、みのもんたさんがAI・CGで復活するという報道。故人をAI技術で「復活」させる試みが、日本でも急速に広がっています。
ファンからは「もう一度会えた」と涙する声がある一方、「故人への冒涜ではないか」という批判も。技術の進歩が生んだこの新しい可能性は、私たちにどんな問いを突きつけているのでしょうか。
この記事では、2025年現在の最新事例から法的・倫理的問題、賛成派・反対派それぞれの主張、そして専門家の見解まで、故人AI復活技術の全貌を徹底解説します。
故人AI復活技術とは?基本的な仕組みを解説
AIで故人を「復活」させる技術の概要
故人AI復活技術とは、亡くなった方が生前に残した写真、動画、音声、テキストデータなどをAI(人工知能)に学習させ、その人の姿・声・話し方を再現する技術です。「故人AI」「デジタル故人」「死者のデジタルアバター」などとも呼ばれています。
具体的には以下のような技術が組み合わされています。
- 音声合成技術:生前の声のデータから、新しい言葉を「その人の声」で生成
- 映像生成技術:写真や動画から表情・動きを再現した映像を生成
- 大規模言語モデル(LLM):SNSの投稿やメッセージから話し方・思考パターンを学習し、会話を可能に
技術の進化がもたらした「新曲」という衝撃
従来の「追悼映像」は、過去の映像を編集したものでした。しかしAI技術の進化により、故人が生前には存在しなかった「新しいコンテンツ」を生成できるようになりました。
AI美空ひばりが披露した新曲「あれから」は、ヤマハの歌声合成技術「VOCALOID:AI」を用いて、美空ひばりさんの歌声を学習したAIが「新しく生成した歌声」です。単に過去の音源をつなぎ合わせたのではなく、AIが「この楽曲をひばりさんならどう歌うか」を予測して歌ったものでした。
2025年最新事例:日本で広がる故人AI復活サービス
事例1:AI美空ひばり(2019年〜)
2019年9月にNHKスペシャルで初公開され、同年の第70回NHK紅白歌合戦で「出演」したAI美空ひばり。秋元康さんがプロデュースした新曲「あれから」を、4K・3Dの等身大ホログラム映像で披露しました。
衣装は生前の美空ひばりさんの「不死鳥」コスチュームを手掛けた森英恵さんが担当し、振り付けは天童よしみさんが監修。養子の加藤和也さん(ひばりプロダクション)の許可を得て実現したプロジェクトでした。
しかし放送後、賛否両論が巻き起こります。「感動した」「神々しい」という声がある一方、山下達郎さんは「冒涜です」と批判。「不気味だ」「違和感がある」という意見も多く寄せられました。
事例2:AIみのもんた(2026年1月放送予定)
2025年3月1日に80歳で亡くなったフリーアナウンサーのみのもんたさん。2026年1月1日に放送予定の『クイズ$ミリオネア』復活特番で、CG・AIチームが「総力をあげてよみがえらせた映像」が流れることが発表されています。
みのさんの死去からわずか10ヶ月後の放送となることから、ネット上では「まだ亡くなって間もないのに」「故人の尊厳の侵害では」という批判的な意見も出ています。
事例3:一般向けAI故人サービスの本格始動
2024年12月、大手冠婚葬祭企業「アルファクラブ武蔵野」がAI故人サービス「Revibot」をリリース。葬儀での活用が始まっています。
東洋経済オンラインの報道によると、2024年12月に98歳で亡くなった男性の通夜式では、亡くなった翌日に遺族がサービスに依頼し、2日後に納品された「故人が語りかける映像」が披露されました。故人本人が撮影したものではなく、遺族が用意した原稿をベースにAIが生成した映像でした。
料金体系も明らかになっています。株式会社アイキューキャピタルの「故人復活サービス」では、入会金55,000円、音声のみ復活118,800円、音声+動画復活217,800円という価格設定です。
世論はどう見ている?賛成派・反対派それぞれの主張
日本人の6割以上が「自分のAI復活」に反対
上智大学の佐藤啓介教授(宗教哲学・死者倫理)の研究によると、日本では6割以上の人が、自分の死後にAIとして復活することに反対しているという調査結果があります。
故人AIに対して「故人への冒涜」と感じる人は少なくありませんが、一方で遺族の「心の支え」になるという声もあり、意見は大きく分かれています。
賛成派の主張
遺族のグリーフケアとしての可能性
「もう一度会いたい」「最後の別れを言えなかった」という遺族の悲しみに寄り添う手段として期待されています。突然の死で十分なお別れができなかった遺族にとって、故人AIを通じて「心の区切り」をつけられる可能性があります。
故人の意思を代弁する手段
遺言では伝えきれなかった想いを、故人の「声」で家族に届けられる可能性があります。
技術革新への期待
2019年のAI美空ひばりから数年で、技術は飛躍的に進化しています。「今は違和感があっても、将来は当たり前になる」という意見もあります。
反対派の主張
故人の尊厳・意思の問題
故人本人は、自分がAIで復活することに同意していたのか。生前に明確な許諾がない場合、これは故人の意思に反する可能性があります。故人はAIが生成した言動に対して抗弁できません。
イメージの書き換えリスク
AIは「その人らしい」言動を生成しますが、実際には本人が言わないことを言わせることが可能です。故人のイメージが、遺族や企業の都合で書き換えられるリスクがあります。
グリーフケアへの悪影響
故人AIに依存することで、かえって死を受け入れられなくなる可能性も指摘されています。「悲しみを乗り越える」プロセスを阻害するのではないかという懸念です。
商業的搾取への懸念
故人への愛情や悲しみを利用したビジネスが広がることへの批判もあります。
法律・倫理の観点から見た問題点
現行法では「保護の対象外」が多い
現行の日本法において、故人AI技術を直接規制する法律は存在しません。
- 著作権法:故人の著作権は死後70年まで保護される
- 刑法:死者の名誉も一定の場合に保護される
- 個人情報保護法:原則として死者は保護の対象外
- プライバシー権:本人のみに帰属し、亡くなれば消滅すると一般に考えられている
つまり、法的には「遺族の許諾」があれば故人AIの制作・公開に問題はないことが多いのです。
「AI事業者ガイドライン」と故人AI
2024年4月に経済産業省と総務省が策定した「AI事業者ガイドライン」は、AIの倫理的な利用を促進するための指針ですが、故人AIに特化した規定はありません。
2025年3月には第1.1版にアップデートされましたが、「公平性」「透明性」「安全性」「説明責任」という原則が示されているものの、故人の権利や尊厳については明確な基準がないのが現状です。
専門家が指摘する倫理的課題
上智大学の佐藤啓介教授は、故人AI固有の問題点として「故人が生前には行わなかった言動を、新たにつくりだす可能性」を挙げています。
実際にはそう言わないかもしれないし、そう振る舞わないかもしれないけれど、「いかにもその人らしい言動をする」ことが、故人AIの特徴であり、問題となりうると指摘しています。
「似ていない方がいい」逆説的な研究結果
興味深いのは、故人AIの利用者研究から見えてきた逆説的な知見です。
東京科学大学の高木良子さんの研究によると、故人そっくりのAIアバターが必ずしも遺族にとっての価値になるわけではないといいます。「似ていない方が、その人の存在を強く感じられる」という声もあり、完璧な再現が必ずしも良い結果をもたらすわけではないことが分かってきました。
遺影や位牌といった従来の「死者を象徴するもの」は、故人そのものではないからこそ、遺族が自分なりの想いを投影できる余地がありました。AIで完璧に再現することが、必ずしも弔いの最適解ではないという示唆です。
海外の動向:中国・韓国・アメリカでは
中国:急成長する故人AIビジネス
中国では故人のAIアバターを生成するビジネスがブームとなっています。ただし、倫理的・法的問題も指摘されており、今後の規制動向が注目されています。
韓国:VRでの再会プロジェクト
2020年には、7歳で亡くなった娘をVRで復活させた韓国のプロジェクトが世界的な話題になりました。母親がVR空間で娘と「再会」する映像は、多くの人の涙を誘うと同時に、「AIに依存してしまわないか」という懸念も生みました。
台湾:専門家が娘を復活させた事例
AI研究の博士号を持つ台湾のTino Bao氏は、22歳で亡くなった娘をAIで復活させ、SNSに動画を投稿して話題に。娘のAIは歌って踊ることもでき、誕生日のお祝いコメントを話すことも可能だといいます。
賛同するコメントが多い一方、「AIに頼っていては家族の死を乗り越えられないのでは」という意見も出ています。
故人AI技術と向き合うために:3つの視点
1. 故人の生前意思を確認する仕組みづくり
現在、故人AI制作の可否は遺族の判断に委ねられています。しかし本来は、本人が生前に「AIでの復活を許諾するか」を意思表示できる仕組みが必要かもしれません。
臓器提供意思表示カードのように、「デジタル遺言」として自分の死後のAI利用についての意思を残せる制度の検討も始まっています。
2. 「何のためのAI復活か」を問い直す
故人AIは「誰のため」に作られるのか。遺族の癒しのためか、商業的利益のためか、あるいは故人への敬意からか。目的によって、許容される範囲も変わってくるでしょう。
葬儀での限定的な使用と、テレビ番組での大々的な露出では、求められる倫理基準も異なるはずです。
3. 技術と人間の距離を保つ
故人AIはあくまで「故人を想起させるもの」であり、故人そのものではありません。この区別を忘れず、技術に依存しすぎない関係性を築くことが大切です。
位牌や遺影がそうであるように、故人AIも「死者と私たちをつなぐ媒体」の一つとして位置づけ、それが唯一の弔いの形ではないことを心に留めておく必要があります。
まとめ:答えのない問いと向き合う
故人をAIで復活させる技術は、「アリかナシか」の二択で答えられる問題ではありません。
技術的には可能になったことが、倫理的に許されるかどうかは別の問題です。そして、その答えは一律に決められるものではなく、故人との関係性、目的、使い方によって変わってくるでしょう。
確実に言えることは、この技術が今後さらに広がっていくということ。そして、私たち一人ひとりが「自分ならどうしてほしいか」を考え、意思表示しておくことの重要性が増していくということです。
亡くなった方への敬意と、残された人の癒し。その両立を模索しながら、私たちは新しい「弔いの形」と向き合っていく必要があるのかもしれません。
この記事のポイント
- AI技術で故人の姿・声・話し方を再現し、新しいコンテンツを生成できるようになった
- 2025年現在、日本でも一般向けサービスが本格始動している
- 日本人の6割以上が「自分のAI復活」に反対という調査結果も
- 現行法では故人のプライバシー権は保護対象外が多く、法整備が追いついていない
- 故人の意思確認、目的の明確化、技術への適切な距離感が今後の課題
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